認知症

認知症とは

認知症とは

「認知」とは、私たちが周囲の物事を認識し、それを判断・理解する心の働きを指します。この認知機能がさまざまな要因によって障害されると、理解力や判断力が落ち、日常生活に支障をきたすようになります。このような状態を「認知症」と呼びます。代表的な認知症にはアルツハイマー型認知症があり、他にもレビー小体型認知症や血管性認知症など、いくつかのタイプが存在します。認知症は症状の現れ方も進行の仕方も患者様によって異なるため、対応方法や治療も個別に調整する必要があります。物忘れがあるからといってすぐに認知症とは限りません。不安や心配がある場合には、なるべく早めにご相談いただくことをおすすめします。

認知症は「65歳以上の5人に1人」の時代へ

日本では高齢化が進む中で、認知症の方の数も年々増え続けています。特に2025年には、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、認知症の患者数はおよそ700万人に達すると推測されています。これは高齢者のおよそ5人に1人が認知症になる計算です。さらに2050年には、人口全体における高齢者の割合が約40%に達すると見込まれ、認知症は誰にとっても身近な疾患になっていくと考えられています。
この「With認知症時代」を迎えるにあたり、当院ではご本人はもちろん、ご家族も安心して日々を過ごせる環境づくりを目指しています。認知症は、早期に気づき、適切な治療を始めることで進行を遅らせることが可能な病気です。もし気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

認知症に見られる主な症状

認知症では、記憶力の低下だけでなく、「今どこにいるのか」「何時なのか」といった見当識の障害や、理解力・判断力の低下など、さまざまな症状があらわれることがあります。

記憶障害(物忘れ)

  • 同じ話を何度も繰り返す
  • 最近起きた出来事を覚えていない
  • 食事をしたこと自体を忘れる
  • 家族や友人の名前が思い出せない
  • 同じものを何度も買ってしまう
  • 物を置いた場所を思い出せない
  • 常に何かを探している
  • 家事や長年続けてきた仕事ができなくなる
  • 食事や入浴など、日常的な行動に迷いが出る
  • 約束した日や内容をすっかり忘れてしまう

など

見当識障害

  • 現在地や時間がわからなくなる
  • 今日が何日、何曜日かが理解できない
  • 通い慣れた道で迷ってしまう

など

機能的能力の低下

  • 家電やテレビの操作がうまくできない
  • 会話の内容を理解するのが難しくなる
  • 自分の状況が把握できない
  • 感情の起伏が激しくなる、怒りっぽくなる
  • 起こっていないことを信じ込む(妄想・幻覚)

など

加齢による物忘れとの違い

加齢によっても物忘れは起こりますが、認知症とは異なる点があります。以下のような特徴が見られる場合、認知症の可能性があるため、専門医への相談をおすすめします。

  • 話の辻褄を無理に合わせようとする
  • 大事な予定を忘れてしまう
  • 食事をした記憶そのものが抜け落ちる
  • 生活に明らかな支障が出ている

など

認知症の原因について

認知症の発症メカニズムは、その種類によって異なります。なかでも最も多くみられる「アルツハイマー型認知症」は、脳内にアミロイドβというたんぱく質が過剰に蓄積されることが関係しているとされています。このたんぱく質がうまく排出されずに蓄積することで、脳の神経細胞が損傷を受け、認知機能が徐々に低下していきます。

一方、「血管性認知症」は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる脳血管障害が原因です。このタイプの認知症は、高血圧や高脂血症、糖尿病といった生活習慣病がリスクを高める要因とされています。

「前頭側頭型認知症」はタウたんぱくなどのたんぱく質が神経細胞内に蓄積する事によって、前頭葉や側頭葉の萎縮をきたすと言われていますが、はっきりは判明していません。

認知症の原因となりうる疾患

認知症を引き起こす代表的な病気には、以下のようなものがあります。

  • アルツハイマー型認知症
  • レビー小体型認知症
  • 血管性認知症
  • 前頭側頭型認知症

このほかにも、以下のような疾患が認知機能の低下を招くことがあります。

  • 慢性硬膜下血腫
  • 脳腫瘍
  • 正常圧水頭症
  • ヘルペス脳炎
  • HIV脳症
  • ビタミンB1またはB12の欠乏による障害

認知症には可逆的な(治療によって改善が見込める)タイプもありますので、「もしかして」と感じた時には、早めに医療機関を受診することが大切です。

認知症の種類

種類 初期症状 態度 発症経過 特徴的な症状
アルツハイマー型認知症 物忘れ 穏やかで協力的だが、自信を失いやすく、物忘れを隠そうとすることがある(取り繕い) ゆっくりと進行。記憶障害から始まり、徐々に判断力や理解力も低下していく 見当識障害(場所 時間など分からず) 失認 失行 理解力の低下
血管性認知症 歩行障害など麻痺による症状がみられることがある。 突然泣き出したり、笑い出すなどの感情失禁が時に見られる。時に意欲低下が目立つ 発症が比較的急激で、段階的に悪化することが多い 感情コントロール不良 記憶障害 運動障害
レビー小体型認知症 幻視などの幻覚症 注意・意識が変動しやすく、あるときは普通でも、あるときは反応が鈍い 認知機能の変動があり、症状の出方に波がある。初期から幻視がみられることが多い 抑うつ状態、幻視、パーキンソン症状(歩行困難、手の震えなど)不眠 自律神経症状
前頭側頭型認知症 表情が乏しくなったり、場に合わない笑い・行動が目立ったりする 社会的マナーが欠如し、反社会的・衝動的な態度をとることがある 比較的若い年齢(50~60代)に発症することが多く、進行は緩やか 常同行動、人格変化、脱抑制(性的逸脱、暴言)、易怒的となる

認知症の主なタイプとその特徴

アルツハイマー型認知症

認知症の中で最も多く見られるのがアルツハイマー型認知症で、全体の約4〜7割を占めます。このタイプでは、記憶を司る「海馬」を含む側頭葉が徐々に萎縮していきます。そのため、「物忘れ」が初期症状として現れることが多く、やがて思考力や判断力など、他の脳機能も次第に衰えていきます。早期に治療を開始することで進行を遅らせることが可能です。

レビー小体型認知症

レビー小体という異常なたんぱく質が大脳皮質に蓄積し、神経細胞を障害することで起こる認知症です。全体では約4%と少なめですが、認知症の中では3番目に多いタイプです。主な特徴としては、「壁に虫がいる」などの幻視、日によって大きく変動する認知機能、手足のこわばり、ふるえなどパーキンソン病に似た運動障害が見られることがあります。また、睡眠中に叫んだり体を激しく動かしたりする「レム睡眠行動障害」が見られることもあります。

前頭側頭型認知症

前頭葉と側頭葉と呼ばれる脳の部位に萎縮が生じて、脳の機能が正常に働かなくなる疾患です。前頭葉は社会性、人格をつかさどり、側頭葉は記憶をつかさどります。そのため、今まで何ともなかった人が比較的急速に不潔、だらしなくなるなどの人格変化がみられ、それにより気づかれることが多いです。50代以降の比較的若い年齢でみられることがあります。

血管性認知症

主に動脈硬化の進行によって、脳梗塞や脳出血など、脳の血管に関する障害によって発症する認知症です。症状の出方は多様で、できることできないことに大きなばらつきがあります。アルツハイマー型認知症に次いで多く、全体の約20%を占めます。

軽度認知障害(MCI)について

軽度認知障害(MCI)について

軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、日常生活に大きな支障はないものの、記憶力などの認知機能にわずかな低下が見られる状態です。これは認知症の前段階とも言える状態で、1年で5%〜15%の人が認知症に進行すると言われています。

MCIの段階で適切な対応や治療を始めれば、認知症への進行を遅らせたり、予防することも可能です。そのため、「なんとなく物忘れが増えた」「気になる変化がある」といった早期のサインを感じたときは、なるべく早めに専門医にご相談されることをおすすめします。

認知症の治療について

認知症の治療について

現在、認知症の多くを占めるのは、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、および前頭側頭型認知症などの代表的なタイプです。一方で、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺機能の低下、ビタミンB1・B12の欠乏、さらには呼吸器や肝機能障害など、別の身体的な疾患が原因となる認知症もあります。これらの場合には、基礎疾患の治療によって認知機能の改善が見込まれることもあります。
根本的な治療が難しい認知症に対しては、病状の進行をできる限り遅らせ、生活の質を保つことが治療の主な目的です。同じ病型であっても、患者様それぞれで症状や進行スピードは異なるため、お一人おひとりに合った治療を行うことが重要です。
治療は、薬物療法と非薬物療法(心理的・リハビリ的アプローチ)を適切に組み合わせて行います。非薬物療法としては作業療法、運動療法などが推奨されています。

アルツハイマー型認知症の中核症状への薬物治療

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

大きくアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と NMDA受容体拮抗薬に分けられます。前者の薬は、記憶や学習に関わる神経伝達物質「アセチルコリン」の分解を抑えることで、脳内の情報伝達を助け、認知機能の維持に効果を発揮します。後者の薬はグルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化を防ぎ、神経細胞障害や記憶学習障害などを抑える作用があります。

ドネペジル

アセチルコリンの機能を増強するために、使用する薬です。アルツハイマー型の認知症症状の進行を遅らせる効果が期待できます。レビー小体型認知症にも使用されます。

ガランタミン

アセチルコリンの機能を増強するために、使用する薬です。軽度〜中等度アルツハイマー型認知症の患者さんに適応され、1日2回の服用が必要です。認知症症状の進行を遅らせる効果が期待できます。

リバスチグミン(経皮吸収型パッチ剤)

アセチルコリンの機能を増強するために、使用する薬です。軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。抗認知症薬の中で唯一の貼付タイプの薬で、服薬管理が難しい方にも使用しやすいのが特徴です。背中や胸、上腕などに24時間ごとに貼り替えて使用します。

NMDA受容体拮抗薬

メマンチン(商品名:メマリー)
神経を過剰に刺激してしまうグルタミン酸の働きを抑制し、神経細胞の損傷を防ぐ役割があります。中等度以上のアルツハイマー型認知症に適応があります。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬との併用も可能です。認知機能の低下の抑制が期待されます。

認知症の行動・心理症状(BPSD)への対応

認知症では、記憶力や判断力といった「中核症状」だけでなく、精神的・行動的な変化が見られることがあります。これらをまとめて「認知症の周辺症状(BPSD)」と呼びます。
たとえば、

  • 妄想(物を盗まれたと思い込むなど)
  • 暴言や暴力的な言動
  • 性的な逸脱行動
  • 抑うつ(気分の落ち込み)
  • 徘徊(目的なく歩き回る)

などが代表的な症状です。

このような症状に対しては、まずは患者様の不安や混乱の背景に寄り添いながら、心理的サポートや生活環境の調整を行うことが基本となります。当院ではご本人の心の状態を丁寧に見極めながら、リハビリや環境整備を通じて症状の緩和をめざします。
こうした非薬物的なアプローチで十分な効果が得られない場合には、薬物療法の導入を検討します。具体的には、抗うつ薬や抗精神病薬などを、症状に応じて慎重に選択し、必要最小限の量で投与することを基本方針としています。

若い世代の認知症「若年性認知症」とは?

認知症は一般的に高齢者に多い病気と考えられていますが、65歳未満で発症する「若年性認知症」も存在します。このタイプは働き盛りの年代にも起こりうるため、仕事や家庭への影響が大きく、早期の対応が重要となります。

当院では、必要に応じて連携している医療機関をご紹介し、専門的な検査を迅速に受けていただける体制を整えております。早めの検査と適切な治療開始が、その後の生活を大きく左右するため、「あれ?」と気になる症状があれば、年齢に関係なく、ぜひ一度ご相談ください。